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神戸地方裁判所 昭和59年(ワ)1865号 判決

原告(反訴被告)

萬代満夫

被告(反訴原告)

尹元三

ほか一名

主文

一  原告の被告らに対する本訴請求を棄却する。

二  原告は

1  被告尹元三に対し、金二七六万九二九四円及びこれに対する昭和六〇年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員を

2  被告任三根に対し、金二六七万〇七一七円及びこれに対する昭和六〇年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。

三  被告らの原告に対するその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は本訴、反訴を通じ二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

五  この判決は第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

本訴につき

1  原告は被告らに対し、別紙目録記載の交通事故に関し、何らの債務を負担していないことを確認する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

反訴につき

1  被告らの反訴請求を棄却する。

2  反訴費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

本訴につき

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

反訴につき

1  原告は

(一) 被告尹元三に対し、金六〇四万四六三五円及び内金五八四万四六三五円について昭和六〇年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員を

(二) 被告任三根に対し、金六一三万三四三五円及び内金五九三万三四三五円につき昭和六〇年三月二三日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。

2  反訴費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

第二当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  別紙目録記載の交通事故(以下本件交通事故と略称する)が発生した。

2  被告尹元三は、本件交通事故により負傷したとして、昭和五九年一〇月一日から同月二八日まで久野病院で入院治療し、昭和五九年一〇月二九日から慈恵病院で入院加療中である。

被告任三根は、本件交通事故により負傷したとして、昭和五九年一〇月一日から久野病院で入院加療中である。

3  ところが、本件交通事故での追突はごく軽いものであり、被告らにおいて負傷するはずはなく、よつて被告らに対し、本件交通事故に関し何らの債務も負担していないので、本件訴を提起する。

二  本訴請求の原因に対する被告らの認否

1  同第1、2項の事実は認める。

2  第3項の事実は争う。

三  反訴請求の原因

1  本件事故により、被告らは次のとおり受傷、治療をした。

(一) 被告尹元三は、頸椎捻挫、頭部外傷Ⅱ型を受傷し、昭和五九年一〇月一日から同月二八日まで神戸市垂水区神出町広谷六二三―一六所在久野病院に、同年一〇月二九日から同年一二月二九日まで神戸市垂水区日向一丁目二―一三所在慈恵病院に、各入院し、退院後昭和六〇年三月一四日現在まで右慈憲病院に通院中である。

(二) 被告任三根は、頸椎捻挫、頭部外傷Ⅱ型を受傷し、昭和五九年一〇月一日から同六〇年一月九日まで前記久野病院に入院し、退院後昭和六〇年三月一四日現在まで同病院に通院中である。

2  原告は加害自動車の運用供用者であるから、自賠法三条により被告らの損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 治療費

(イ) 被告尹元三につき、

久野病院(昭和五九年一〇月一日から同月二八日まで)

金一、一一三、五七五円

慈恵病院(昭和五九年一〇月二六日から同六〇年二月二〇日まで) 金一、七六七、七五〇円

計金二、八八一、三二五円

(ロ) 被告任三根につき

久野病院(昭和五九年一〇月一日から同六〇年一月三一日まで)昭和五九年一〇月分金一、二五七、二五〇円、同年一一月分金一、〇八七、二七五円、同年一二月分金九九七、〇五〇円、同六〇年一月分金二九一、八六〇円

計 金三、六三三、四三五円

(二) 休業補償

(イ) 被告尹元三は靴加工業で、月平均の加工料収入は金三五万二、六六二円である。本件受傷により昭和五九年一〇月一日から一二月二九日まで入院し、その間全く加工業に従事できなかつた。昭和五九年一二月三〇日から同六〇年二月二八日まで通院し、前同様右加工業に全く従事できなかつた。よつて、右五か月間の逸失利益は一か月金三五二、六六二円の五か月分計一、七六三、三一〇円である。

(ロ) 被告任三根は兄の経営する訴外国華護膜工業株式会社にボイラーマンとして勤務していたものである。昭和五七年二月、同五八年四月及び六月は就労し、計金六八一、〇〇〇円の給料を得ていたことがある。その間は病気がちで就労していないが、事故当時は勤務しうる健康状態に回復していた。よつて、本件事故による逸失利益を月額金二二〇、〇〇〇円とする。本件受傷により、前記の如く入通院し、その間就労できなかつたので、昭和五九年一〇月一日から同六〇年二月末日まで五か月間の逸失利益は計金一、一〇〇、〇〇〇円である。

(三) 慰藉料

(イ) 被告尹元三につき、

前記入通院により金一一〇万円

(ロ) 被告任三根につき、

前記入通院により金一一〇万円

(四) 弁護士報酬 金六〇万円

原告は債務不存在確認請求本訴を提起し、それに対して被告両名は争うため弁護士に訴訟委任し、着手金各金一〇万円計二〇万円を支払つた上、勝訴の場合は各金二〇万円の報酬の支払を約した。

4  よつて、原告に対し、被告尹元三は金六、〇四四、六三五円及び内金五、八四四、六三五円につき本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年三月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員の、被告任三根は金六、一三三、四三五円及び内金五、九三三、四三五円につき本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年三月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員の各支払を求めるため反訴に及ぶ。

四  反訴請求の原因に対する認否

1  同第1項の事実は不知。

2  同第2項の事実中、原告が加害自動車の運行供用者であることは認め、その余の点は争う。

3  同第3項の事実はすべて争う。

4  原告の主張

(一) 被告らは、本件交通事故により、負傷していない。被告らの、本件交通事故により負傷したとの供述は、被告らの過去及び現在の行動等より、とうてい信用できないものである。

(二) 被告尹においては、原告に判明したものだけで、別表一のとおり過去二回交通事故に遭遇しており、被告任において、別表二のとおり本件交通事故の僅か一〇月前に交通事故に遭遇している。

しかも、別表一記載の第二回の交通事故の加害者が被告尹であり被害者が被告任であり、本件交通事故は右第二回の交通事故の加害者尹と被害者任が同乗しての事故である。又、右第二回の交通事故の被害車両の運転者は訴外金龍昊であり、訴外金龍昊は、昭和五八年六月一八日、交通事故の保険金詐欺事件で、兵庫県警察本部に逮捕された人物である。

(三) 被告尹は、昭和五七年一〇月五日、別表一記載第一回の交通事故にあい、翌年四月一一日まで約六ケ月通院し、同年七月一四日に自賠責の後遺障害保険金を受領し、その約三ケ月後に別表一記載第二回の交通事故を起し、約一ケ月半入院し、昭和五九年五月三一日まで約五ケ月通院し、同年七月一七日、自賠責の後遺障害保険金を受領し、その約二ケ月後に別表記載第三回の本件交通事故にあつている。

被告尹は、別表一記載第一回の交通事故にあつた昭和五七年一〇月五日より、本件訴えを提起した昭和五九年一二月二三日まで約二年二月間に三回交通事故にあい、約四ケ月余り入院し、約一一ケ月通院をしている。

(四) 被告任は、昭和五八年一一月二五日、別表二記載の第一回の交通事故(別表一の第二回の交通事故と同一の事故)にあい、約二ケ月入院し、昭和五九年八月二日まで約六ケ月通院し、同年八月二八日、自賠責の後遺障害保険金を受領し、その僅か一ケ月後に本件交通事故に遭遇している。

被告任は、別表二記載第一回の交通事故にあつた昭和五八年一一月二五日から本件訴訟を提起した昭和五九年一二月二三日の約一五ケ月の間に、約五ケ月入院し約六ケ月通院している。しかも、被告任は、本件の事故による負傷の治療のため、自宅より遠く離れた神戸市の西端にある久野病院に入院・通院しており、非常に不自然である。

(五) 被告両名は、交通事故により傷害を受けた場合の損害を填補する交通事故傷害保険に多数加入しているようである。

被告尹は、本件交通事故に関し、本件交通事故により治療を受けた久野病院より、左の通り、保険会社宛の診断書等の交付を受けている。

アメリカン・ホーム保険株式会社、簡易保険、太陽生命保険相互会社、第一生命保険相互会社、宛先不明、日動火災海上保険株式会社、日本団体生命保険株式会社

被告任は、本件交通事故に関し、本件交通事故により治療を受けた久野病院より、左の通り、保険会社宛の診断書等の交付を受けている。

アメリカン・ホーム保険株式会社、日本団体生命保険株式会社、宛先不明、アメリカン・ホーム保険株式会社、神戸市民生活協同組合、日動火災海上保険株式会社

(六) 以上の事実から、被告両名が本件交通事故で負傷したという被告両名の供述は、とうてい信用できないものである。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生

本訴請求の原因第1、2項の事実は当事許間に争いがない。

成立に争いのない乙第一ないし第六号証、同第一四、一五号証、被告尹元三、同任三根、原告各本人尋問の結果を総合すれば、1 本件事故現場付近の状況は別紙交通事故現場見取図記載のとおりである。2 原告は、本件事故当時加害車を運転して京橋インター流出ランプに進行し、元町方向に向うべく、時速約三〇キロメートルで同見取図〈1〉地点(以下番号の地点はすべて同見取図記載のものである)に来たとき、左側の車線から割り込んできた他車(同図面〈A〉車と表示)に気がとられ、前方注視不充分のまま、漫然同一速度で進行した過失により、折から一時停止場所である〈ア〉地点で停止中の被告尹元三運転の被害車をその前方約一・六メートルの〈2〉の地点まで接近してはじめて気づき、直ちに衝突の危険を感じ、急制動の措置をとつたが、及ばず、〈×〉地点において、被害車後部に加害車前部を追突させた。3 右追突の衝激により被害車は〈ア〉地点から一・一メートル前方〈イ〉地点まで移動し、被告尹元三は頸椎捻挫、頭部外傷の傷害を、また被害車の助手席に同乗していた被告任三根は頸部捻挫、頭部外傷の傷害を負つた。4 さらに前記追突により加害車は左前バンパー凹損、被害車は右後部バンパー凹損の各破損が生じた。

以上の事実が認められ、これに反する原告本人の供述部分は措信できず、加害車、被害車の写真であること当事者間に争いがない検甲第一ないし第七号証(いずれも本件事故から日時の経過した写真である)をもつてしては、前記認定事実を動かすに足らない。

二  責任事由

原告が被害車の保有者であることは当事者間に争いがないから、原告は、自賠法三条により被告らの被つた損害を賠償する責任がある。

三  被告らの受傷程度

成立に争いのない甲第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし一四、第一四号証の一ないし三四、第一五号証の一ないし二二、第一六号証を総合すれば、1 被告尹元三は、前記受傷治療のため昭和五九年一〇月一日から同月二八日まで久野病院に、同年一〇月二九日から同年一二月二九日まで慈恵病院に各入院し、以後昭和六〇年二月二〇日現在も同病院に通院していること、2 被告任三根は、前記受傷及び頸部捻挫により併発した左外転神経麻痺、両眼瞼浮腫の治療のため、昭和五九年一〇月一日から同六〇年一月九日まで久野病院に入院し、右以降同六〇年一月三一日現在も同病院に通院していることがそれぞれ認められる。

四  前記受傷と本件事故との因果関係

1  前記一の認定事実によれば、加害車は時速約三〇キロメートルの速度で、一時停車中の被害車に追突し、被害車両は一・一メートル前方に移動し、かつ一部破損したことが明らかであつて、それによれば、被告らは被害車が追突された衝激により頸部がゆさぶられて頸椎捻挫を起す別能性が充分あり、また、前三に掲記の証拠によれば、被告らは前三認定のとおりの傷害及び治療を受けていることに疑いをさしはさむ余地がない。

2  もつとも、被告らの本件事故により受傷した頸部捻挫が、その治療につき、前三認定のとおり入院約三か月、通院約二か月に及ぶほど難治性のものになつているという点については、本件事故のほかに被告らの既往症による影響を無視することはできない。すなわち、成立に争いのない甲第八号証の一ないし五、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一ないし五、第一一号証の一ないし一四、第一七ないし第四二号証、被告尹元三、同任三根各本人尋問の結果によれば、別表一、二既往症記載の事実が認められ、それによれば、被告らには頸部捻挫の既往症があり、被告らの前記三認定の受傷は、本件事故と右既往症とが競合して発生したものというべきである。

しかし、前記1の事実によれば、被告らにおいて右既往症があるからといつて、本件事故と前記三認定の受傷との間の因果関係を全面的に否定するのは相当でなく、後記認定のとおり、右受傷に基く損害から既往症による寄与度を控除すれば足りるものと解される。

3  また、被告尹元三、同任三根各本人尋問によれば、被告らはいずれも原告主張のように複数の保険をかけていることが認められるけれども、本件事故は被告らの保険金目当に工作されたものでないことは、前記1の事実から推認され、また、別表一、二既往症に記載の金竜昊が交通事故を種とした保険金詐欺を働いたとしても、同人の所業から直ちに被告らが本件事故及び受傷を偽装しているものと推論すべき限りではない。

以上要するに、本件事故と被告らの受傷との間には、因果関係があるものというべく、他にこれをくつがえすに足る証拠はない。

五  損害

1  治療費

(一)  被告尹元三 二八八万一三二五円

成立に争いのない乙第一六、第一七号証によれば、同被告の治療費は頭書金員であることが認められる。

(二)  被告任三根 三六三万三四三五円

成立に争いのない乙第二二ないし第二五号証によれば、同被告の治療費は頭書金額であることが認められる。

2  休業損害

(一)  被告尹元三 一三四万九二六四円

(1) 被告尹元三本人尋問の結果によれば、同被告は、本件事故当時靴加工業をしていたことが認められるが、月平均の加工料収入が三五万二六六二円であつたとの同本人の供述及び右供述に沿う乙第一八号証の記載は、たやすく措信できない。

同被告は本件事故当時三八歳であつたことは、同本人尋問の結果によつて明らかであるところ、昭和五九年度賃金センサス産業計、規模計、男子全労働者三八歳の月平均賃金は三三万七三一六円(二六万二一〇〇円+九〇万二六〇〇円÷一二)であることが当裁判所に顕著な事実であり、同被告は本件事故当時右月平均賃金の収入があつたものと推認する。

(2) 同被告は、前三認定の三か月の入院中、及び通院二か月のうち一か月合計四か月間、本件事故により休業を余儀なくされたものと認める。

(3) したがつて、同被告の休業損は一三四万九二六四円となる。

337,316×4=1,349,264

(二)  被告任三根 四〇万円

(1) 前記甲第一四号証の三四、被告任三根本人尋問の結果によれば、同被告は、昭和五〇年ごろ気管支炎にかかり、以後兄の経営する会社に従業員として勤め、仕事が充分できないまま、兄達の援助を受けて生活していたこと、しかし本件事故当時には気管支炎がかなり回復し、働く意思及び能力も少なからずあつたこと、同被告は本件事故当時五二歳であつたことが認められる。

昭和五九年度賃金センサス産業計、規模計、男子全労働者五二歳の月平均賃金は三四万六七八三円(二六万七三〇〇円+九五万三八〇〇円÷一二)であることは当裁判所に顕著な事実であり、同被告は本件事故当時、もし事故にあわなければ、毎月、右月平均賃金の約三分の一である一〇万円の収入をあげていたものと推認される。

(2) 同被告は前三認定の三か月の入院中、及び通院二か月のうち一か月合計四か月間、休業を余儀なくされたものと認める。

(3) したがつて、同被告の休業損は四〇万円となる。

3  慰謝料

被告らの慰謝料はそれぞれ八〇万八〇〇〇円をもつて相当と認める。

4  まとめ

以上1ないし3の損害を合計すると、被告尹元三は五〇三万八五八九円、同任三根は四八四万一四三五円となる。

六  素因の減額

前三の2認定のとおり、被告らには、頸椎捻挫の既往症があり、被告らの本件受傷は、右既往症と本件事故とが競合して発生したものであるところ、被告らの前記損害額から右既往症による寄与度を減額するのが、損害の公平な分担上相当である。しかして、被告らの別表一、二に記載した既往症の内容からすれば、前記損害額に対する既往症の寄与度は、被告らいずれも五〇パーセントであると認定すべく、右割合を控除すると、被告尹元三の残損害は二五一万九二九四円、同任三根の残損害は二四二万〇七一七円となる。

七  弁護士費用

被告ら一人につき各二五万円をもつて相当と認める。

そうすると、損害合計は、被告尹元三について二七六万九二九四円、同任三根について二六七万〇七一七円となる。

八  結び

以上の次第で、被告らの請求中、原告に対し、被告尹元三については損害金二七六万九二九四円、同任三根については損害金二六七万〇七一七円及び右各金員につき反訴状送達の翌日である昭和六〇年三月二三日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、被告らのその余の反訴請求及び原告の被告らに対する債務不存在確認請求は、いずれも理由がないから、これを棄却する。

よつて、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 広岡保)

交通事故の表示

発生日時 昭和五九年九月三〇日

発生場所 神戸市中央区新港町県道高速神戸西宮線

京橋インター流出ランプ

加害車 普通乗用車 登録番号 神戸五八る八六三二

原告運転

被害車 普通乗用車 登録番号 神戸五七て二〇三一

被告尹元三運転

被告任三根同乗

事故態様 追突

別表一 既往症

〈省略〉

別表二 既往症

〈省略〉

別紙

〈省略〉

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